真夜中の恋人
スーツケースをトランクに入れて、彼に続いてタクシーに乗り込んだ。

「どこまで?」

「……その先の、ファミレスで止めてください」

そう言うと、彼は怪訝そうに眉をひそめた。

「お腹、空いた?」

「……いえ」

ただ、帰る場所がないだけ。

言えない言葉を飲み込むと、胃がムカムカと重たくなった。


ファミレスの手前の信号でタクシーが止まった。
もうすぐ彼とお別れだ。そう思うとなんだか寂しくなって、彼を横目で盗み見る。

彼は、何か考えているみたいに、顎に手を当てていた。

『話し相手になってくれてありがとう』と彼は言ったけれど、わたしが彼のような人の相手が出来たとは、とても思えない。


信号が青に変わる。

ゆっくりスタートしたタクシーの中で、彼が徐に行き先の変更を告げた。

「あの」

驚くあたしの方に身体を傾けると、彼は真っ直ぐな瞳で「事情を話してくれる?」とわたしの手を握った。

彼の手の温もりが心地好かった。

直ぐにその手は離されたけれど、彼の大きな手に包まれた感触は、いつまでもわたしの右手に残っていた。




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