ラブレターを君に
多くの若者達が、一斉に声を荒げ、在らん限りの力を振り絞り声援をしている姿を目の当たりにした……



孝志が生まれて初めて見る光景……


こんな事が起こり得るものなのか?


隣りの、美歌を見るとまるで放心状態である。終いに泣き出してしまっているではないか………



何なんだろうか?この胸のざわめきは…



自分の中で初めて知らされた気がする………



あの、家に理音を連れてきた青年が………今目の前にいるあの青年なのか?



テンポが変わる度に表情までもが違って見えるのは、何故だ!



今隣りで美歌が泣きながら聴いている曲………確かに何処かもの悲しげにも聞こえる。



心の中にどんどんと入って来るようだった。



目を凝らし、カズを見ていると……ライトの光に照らされ、頬にひとすじの涙がこぼれ落ちたに見えたのは、私だけであろうか!



いやっ!ファンにもどうやら…伝わったらしく、奇声が飛んだ。



「キャーーーカズっーー頑張ってぇーーーーー」



あちらこちらから、声が飛んだ。



人が人に、物を訴える時、言葉だけを今まで重要視してきた。がっしかし、音楽というものが、これ程までに、心の中に響いて来るものなのかという事に初めて孝志は、気付いたのであった。
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