HE IS A PET.
「風邪引いてる。あと、二日酔いでぐだぐだ。でも元気」
風邪引いてて二日酔いだけど、元気。日本語的には変だけど、アズミンらしい。
「戸田さんから聞いたよ。エリック、アメリカに帰ったんだってね」
怜にとっては朗報だ。なのに喜びはしない。
「うん。アズミ、空元気」
そう言う怜が一番元気がない。
「傷心旅行に行くって言い出したと思ったら、もう予約しちゃってて。今日明日、二泊」
「どこに?」
「熱海」
「怜も行くの?」
「うん。旅行から帰ったら実家にも帰らなくちゃいけないから……年明けに会える?」
「え?」
思いがけない打診に不意を突かれる。
「咲希さんの都合のいい日で」
会って、どうしたいっていうんだろう。
「昨日……俺、」
その後の言葉は、少し待っても続かない。
「昨日の埋め合わせなら、無理しなくていーよ。元々約束してたわけじゃないし。私も年末年始は実家帰るから」
会いたくない。会って、その度に思い知るのは嫌だ。
アズミンには勝てない。戸田さんみたいに自信もない。
「咲希さん、訊いてもいい?」
罪滅ぼしのような切実さで、怜が尋ねた。
『俺のこと好き?』
そう訊かれる気がして怯んだ。
「嫌って言ったら?」
「訊かない」
「じゃあ訊かないで」
私はもう、怜を安心させるためだけの「好き」は言えない。
『好きだよ。アズミンに捨てられちゃえばいいのにって思うくらい』
そう打ち明けたなら怜はひどく傷ついて、謝るだろうから。
「分かった。咲希さん、ごめん」
「私もごめん。先輩と待ち合わせしてて、もう来る頃だから……」
「あっ、そうなんだ。ごめん、忙しいときに電話して」
「ううん、わざわざありがとう。じゃあ気をつけて、旅行」
「うん、咲希さんも気をつけて。実家から帰ったら、会える?」
屈託のない二度目の「会える?」に、心が折れそうになる。
私がどんなに怜に会いたいか、なんで会いたくないか。知られるわけにはいかない。
「会えるよ」