HE IS A PET.
「ええ。お綺麗ですね」
お愛想と前菜を置いてウェイターが去ったあと、アズミンは旅行の話を始めた。
貸し切りの家族風呂がいい感じだったこと、料理が豪勢だったこと、怜の浴衣姿が色っぽかったこと、温泉街を腕を組んで散歩したこと。
吊り橋で記念写真を撮ったこと、観光はあまりしなかったこと。
怜と布団の中にいる時間が、温かくて気持ち良かったこと。
途中で運ばれて来たやわらかヒレステーキを食べながら、砂を噛んでいるような気持ちでそれを聞いた。
このために私を呼び出したのかと邪推したくなるくらい、アズミンは『怜といかに楽しく過ごしたか』を語った。
怜ははにかんだような少し困ったような顔をして、アズミンの話に所々補足を入れた。
「じゃあ、あたし先に帰るわねぇ。これ、イヴの埋め合わせねー」
話に区切りをつけたアズミンは、テーブルの上に一枚のカードを置いた。
「怜、一晩貸したげる。外泊するって直哉にも言ってあるから」
「怜、まだ戸田さんの所にいるの? 何で」
旅行から帰った後、アズミンのマンションに戻ったんだとばかり思ってた。
「一月いっぱい貸す約束してんの。ビジネス上の取引ってヤツ。ほんとは嫌なんだけどねー」
そう言って、隣の怜を見て瞳を細めるアズミンの考えが、いよいよ分からない。
怜はどこか痛いような顔をして、苦しそうに口を開いた。
「アズミ。咲希さん、困ってるから……」