HE IS A PET.


「別に、困ってないよ」

 困ってるのは怜だ。
 苛立ちに任せて、テーブルに置かれたカードキーを手に取った。

 怜を一晩借りるという意思表示。それを見て、アズミンが席を立った。


「じゃあ、ごゆっくりぃ。だけど、怜は明日十時までに事務所ね。ここと部屋代、精算しとくわねー。追加が出たらカードで払っといて」


 逆らう術もなく従順に頷くペットの頭を撫で、アズミンは先に帰った。

 その後ますます無口になってしまった怜と食事を続け、アズミンが精算を済ませて帰った会計を通りすぎ、エレベーターに乗って部屋のある階数まで下りた。


「あの、ごめん……泊まりなんて勝手に決めちゃって。そういうつもりじゃないって、言ってくれたら……」

 エレベーターの中、途切れ途切れに怜が言った。
 相変わらず言葉が拙くて、主語と指事語の不明瞭さに愛しさが蘇る。


「そういうつもりだけど、私は」

 困ってる怜を見ると、何故かもっと困らせたくなる。

 言葉を失った怜の戸惑いが、沈黙を重くさせた。


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