HE IS A PET.


 視界に迫る大きな掌に、ぐいと乱暴に目元を拭われた。

 私だって泣きたくない。チトセに好かれたくもない。ただ悔しくて、腹が立って、勝手に涙が流れる。


 盛大な舌打ちが頭上から聞こえた。と同時に身体が軽くなった。

 私を解放したチトセは、ソファーから下りて立つと、今度は深く息を吐いた。

「俺のことは、アツか敦司って呼べ。いいか、ここにいる間は、あんたは俺の女だ。フリだけでいい」

 チトセの、女?

「何でそんなフリ……」

「その方が、都合がいーからだよ。フリが出来ねえなら、抱いてやってもいい」

「いえ、それは間に合ってます」

 慌てて変な断り方をして、冷たく睨まれた。


「出かけんぞ。用意しろ」

 寝室を出て行ったチトセは、もう玄関に向かっている。

 用意しろも何も、待つ気ないじゃん。用意する物もないけど。


「どこ行くの?」

「デリヘル」

 デリヘル……デリバリーヘルス?
 女の子を客先に派遣して、性的な接客をさせる仕事。

 まさか、私を……

「おい、何か変な勘違いしてねえか。自分の女に身体売らせるほど、俺は腐ってねえよ」

 自分の女って、私のこと?

 チトセのノリの良さに、ちょっとビビる。恋人のフリ、ノリノリじゃないですか。
 引き気味の私の顎をくいっと掴んで、チトセが怒った。

「言っとくけどよ。フリだろうが、俺の女である以上は、俺以外のヤツに気安く触られんじゃねえぞ。いいな」

「チト……敦司って、もしかして嫉妬深い?」

「は、ふざけんな。俺の顔潰すなっつってるだけだろ」


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