HE IS A PET.
お金を得る手段として、街角や公園に立つようになった梶は、ある日チトセに声をかけられたらしい。
「お前、ウリやってんのかって、いきなりやで。うん、お兄さん買うてくれる? 言うたら、チトセ、『バックはどこだ、ついてんのか』って。俺、なんて答えた思う? 『バックの方が好きやし、体位はオプションちゃうで』って。チトセ、びっくりしとったわ。俺のアホさ加減に。俺みたいなアホなガキが、何の知識も後ろ楯もなしに、立ちんぼやしとったら、ヤクザに目えつけられるんがオチやぞ言うて。めっちゃ怒ってな」
楽しそうに梶が笑う。
「そんな脅さんでもええやん思うたけど、ほんまやってん。チトセが、そのヤクザやったんやからなあ。事務所連れてかれて。ああ、これからはヤクザのために客取らなあかんのか思うた。けど、何でか電話取らされる日々やねん。何でや訊いたら、十八未満やからやねんて」
えっ、ちょっと待って……
「梶って、今いくつ?」
「来月で十八やねん。今の話は、二年近く前の話やで。あー、もうそんなになんねんなあ。来月から俺、客取らなあかんかもしれんねん」
私が握り締めていた空っぽの缶に、梶が手を伸ばした。
そっと奪って、空き缶入れに捨ててくれた。
「………敦司は、梶にそんなこと強要しないよ。敦司はツンケンしてるし、言葉も乱暴だけど、梶のこと大事に思ってるよ。ちょっと見てても分かるのに、二年も一緒にいて分かんないなんて、ほんまにアホなガキやねんな」
驚いたように梶の瞳が見開く。それから優しい形に細められた。
「かなんなぁ。そんなん言われたら、泣けるやん。ありがとうな。でも俺なぁ、チトセのためやったら、また客取るで。せやから、あんまり気にせんでなぁ」