HE IS A PET.


 事務所に戻ると、新しい電話番がいて、客と電話していた。流れるようなマニュアル口調で、料金プランの説明をしている。

 チトセの姿は見えない。


「ほな、姫は確かに送り届けました、と」
 
 独り言のように報告をすると、梶は

「チトセによろしく言うといてや。ほなまたな」

 私の頭を撫でようとしたらしい手を、慌てて引っ込めた。

「あかん、あかん。触ったら殺されるんやった、忘れるとこやった」

「そんなの冗談に決まってんでしょ」

「ちゃうねん。俺みたいな汚れが触ったら、咲希ちゃん汚れそうやから、嫌やねん」

 私は知らなかった。梶がまだ十七歳で、梶みたいな十七歳がいることを。

 普通に高校へ行って、勉強して部活して、友情や恋愛に悩んだり浮かれたりしながら、『特別』に憧れて『普通』に安堵する。
 そんな思春期が普通で、当たり前なんだと思っていた。

「あんな話聞いた後で、触られるん嫌やない? 正直キモいやろ」

 作ったような笑みを浮かべる梶は、とても大人びていてドライだ。

「何、馬鹿なこと言ってんの? ほんまに、あんたはアホやねんな。こんな可愛い子ちゃんが、キモいわけないやん」

 手を伸ばしてプリン頭を撫でると、梶は目を丸くしたあと、やっぱり大人びた顔で笑った。

「マジでか。チトセに殺されても、まあ良しとしとくわ」


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