HE IS A PET.


 梶が出て行った後、見計らったかのようなタイミングで奥の応接室からチトセが出てきた。

 一緒に出てきたのは、いかにも水商売といった風貌の茶髪に日焼けした肌の男だ。
 自分の取り分がどうのとずっと喋り続けながら、チトセに見送られて事務所を出て行った。

 入れ替わりにデリヘル嬢が一人、送迎車の運転手と一緒に帰ってきて、新しい電話番に客のことを愚痴り始めた。

「咲希、奥の部屋で待ってろ」

 チトセにやっと話しかけられて、応接室に追いやられた。

 何もすることがなくて、テレビを点けたけれど本気で観る気にもならず、何となく梶のことを思い出していたら、無性に怜に会いたくなった。

 いつの間に眠ってたんだろう。

 薄く目を開けると、斜め向かいにチトセがいて、煙草を吸っていた。


「……敦司」

 名前で呼ぶ、ということを忘れないために呼んでみると、

「あんた、ああやってタラシこむのが手か」

 意味が分からないことを言って、冷めた瞳で私を見下げるフェイクの恋人。
 これまたご機嫌斜めなようで。

「ああやって、って?」

「梶と随分仲良しになったみてえじゃねえか」

 もしかして、梶の頭を撫で撫でしたの、見てた?
 あらいやだ、どこかの家政婦ばりの覗き見じゃん。

「タラシこむだなんて、嫌な言い方やめてよ。私はただ、梶のことが……」

「可哀想で、ってか?」


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