HE IS A PET.


『姫、喉渇かへん?』

 あのとき奢ってくれた缶ジュース。眠くなる前に口にしたのは、あれだけだ。
 わざわざ缶を開けてから手渡してくれたのも、やっぱり不自然だった。


「チトセとは別れたから、もう梶と話すことない」

 ぶっきらぼうに答えると、梶は呆気にとられたような顔をした。

「え、何でなん。別れたって……嘘やろ?」

「何でなんって、梶、心当たりあるんじゃないの?」

 白々しいにも程がある。悪びれない梶を睨んだ。

「え、もしかして薬? 分からへんように飲ませたん、そないムカついたん?」

 梶は目を丸くした。

「ムカついたに決まってんでしょ」

「嘘やん、そんなんで別れんとってや。騙して飲ませたんは、ようなかったかもしれへんけど。咲希ちゃんの体思うてのことやん。チトセなりの愛情や思うて、許したってや。そんなんで怒るん、ちょっと大人げないで」

 ちょっと待て。何で私が説教されんの?
 しかも、途中から意味不明だ。

「何の話?」

「え? ジュースに混ぜて、分からへんように風邪薬飲ませた件やろ。それで怒ってんのとちゃうん?」

「風邪薬?」

「風邪引いてんのに、苦いの飲まれへん言うて、駄々こねるからやろ?」

 誰がやねん。そんな二十五歳がいたら、マジで大人げない。

 チトセがそんなデマカセを言って、梶ごと騙したんだろうか。
 それとも、そういうことにして、梶が私を騙そうとしてる?


< 288 / 413 >

この作品をシェア

pagetop