HE IS A PET.
『姫、喉渇かへん?』
あのとき奢ってくれた缶ジュース。眠くなる前に口にしたのは、あれだけだ。
わざわざ缶を開けてから手渡してくれたのも、やっぱり不自然だった。
「チトセとは別れたから、もう梶と話すことない」
ぶっきらぼうに答えると、梶は呆気にとられたような顔をした。
「え、何でなん。別れたって……嘘やろ?」
「何でなんって、梶、心当たりあるんじゃないの?」
白々しいにも程がある。悪びれない梶を睨んだ。
「え、もしかして薬? 分からへんように飲ませたん、そないムカついたん?」
梶は目を丸くした。
「ムカついたに決まってんでしょ」
「嘘やん、そんなんで別れんとってや。騙して飲ませたんは、ようなかったかもしれへんけど。咲希ちゃんの体思うてのことやん。チトセなりの愛情や思うて、許したってや。そんなんで怒るん、ちょっと大人げないで」
ちょっと待て。何で私が説教されんの?
しかも、途中から意味不明だ。
「何の話?」
「え? ジュースに混ぜて、分からへんように風邪薬飲ませた件やろ。それで怒ってんのとちゃうん?」
「風邪薬?」
「風邪引いてんのに、苦いの飲まれへん言うて、駄々こねるからやろ?」
誰がやねん。そんな二十五歳がいたら、マジで大人げない。
チトセがそんなデマカセを言って、梶ごと騙したんだろうか。
それとも、そういうことにして、梶が私を騙そうとしてる?