鬼系上司は甘えたがり。
「じゃ、そういうことで。お疲れさまでーす」
そそくさと退散するに越したことはない。
踵を返し、出口へ向かう。
今日はたまたま映画館で遭遇してしまったけれど、私はもともと主任とは仕事以外で関わらないと決めている。理由は、主任が鬼だから。
“薪”という名前にかこつけて『火にくべて燃やすぞ!』と日々しごかれている私に、主任を鬼だと思わない理由なんて存在しないのだ。
仕事は丁寧かつ迅速、頼りになるし、尊敬だってしている、社内外からの信頼も厚い。
そんな主任だけど、なんせ一歩間違えればヤの付く職業になり兼ねないくらい口が悪いのだ、プライベートまで燃やされたくないと思ったって致し方ないことだと思う。
けれど。
「待て。逃げないって言ったじゃねーか」
「ひぃっ!」
がっしりと二の腕を取られ、呆気なく捕獲。
おそるおそる振り向くと主任の頭に見えないはずのツノが見え、ああコレはやっぱり念書を書かされるコースなんだ……と、せっかくの金曜の夜に突如降りかかってきた自分至上最大の不運に覚悟を決めた私なのだった。
*