鬼系上司は甘えたがり。
市街地でもこれくらいの雪は珍しいものではないのだけれど、雰囲気のある温泉街、という場所柄だからだろうか、なんだか特別なものに思えて、しばし無言で牡丹雪を鑑賞してしまう。
すると、奥平さんが口を開く。
「ここは山ですからね。山の天気は変わりやすいと言いますし、降ったり止んだり、除雪作業もしょっちゅうなんですよ。でも、牡丹雪は比較的気温が高くないと降らないんです。空気中の水分量が関係しているんですよ。寒すぎるとサラサラのパウダースノーになりますから、外はたぶん、そんなに寒くないかな」
「あ、そうなんですね。嫌だな、私ったら。とんだ世間知らずでお恥ずかしいです……」
「いえ。お客さまに一度、尋ねられたことがあって。そのときは無知でしたので、お答えして差し上げられなかったんです。そういうことがなければ、俺だって知らずにいました」
知ったかぶりの発言をかましてしまい、恥ずかしさから顔を火照らせていると、しかし奥平さんはそう言って私にニッコリと微笑みかけ、紅茶の残りにゆっくりと口を付けた。
自分のことを“俺”と言い、いくぶんフランクな表現を使ったのも、きっと奥平さんのお気遣いなのだろう、さすがホテルマンさんだ、間違いを正されても嫌な気すらしない。