鬼系上司は甘えたがり。
「……それは、彼氏さん……とかですか?」
奥平さんに訪ねられ、小さく頷く。
「そうですか……。お力になれず、すみません」
「いえ、落とした私がいけないんです。奥平さんが気に病むことでは……。でも私、こう見えてけっこう悪運が強いんですよ!小学生の頃に車に轢かれたけどランドセルがクッションになって無傷だったり、遠足のときに私だけバスに乗り遅れたけどすぐに気づいてもらえたり……!だから絶対、今回も車にあるはずです!」
奥平さんがもう気に病むことがないよう、自分の恥ずかしい体験談を暴露しながら、どれだけ悪運が強いのかを猛烈にアピールする。
他にも自分的に悪運が強かったと思う出来事はあるけれど、武勇伝っぽいのはこの2つだ。
しかし奥平さんは、目を丸くして驚きの表情で聞いていたかと思うと、口元に握り拳を当ててクククッと肩を小刻みに揺らし始めた。
何事かと思っていると。
「ふはっ、それ、悪運が強いって言わない……」
「え!!」
「特にバスの件は渡瀬さんがアホなだけ」
どうやら笑いを堪えていたらしい彼は、とうとう我慢できなくなったようで吹き出して笑い、砕けきった口調でそうツッコミを入れた。