鬼系上司は甘えたがり。
そうして、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出した奥平さんとプライベートな電話番号とアドレスの交換をし、帰社予定時間の午後5時にようやくホテルをあとにしたのだった。
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帰社予定時間を大幅に過ぎて戻った編集部は、今日が仕事始めということもあってか、まだほとんどの社員が残っていて、そこには由里子の姿もあり、張っていた気がちょっとだけ緩む。
各々が予定を書き込むホワイトボードの自分の名前の欄に書いていた『PM2:00〜紅葉屋 帰社PM5:00』を黒板消しで消し、デスクの島を渡って自分の席に戻ると、私に気づいた由里子が「お疲れ、遅かったね」と声をかけてくれた。
腕時計を見ると、午後6時を過ぎている。
安全運転を心がけつつ急いで戻ってきたけど、冬場はやっぱり1時間は掛かってしまう。
「うん、仕事の話自体は問題なく終わったんだけど、ちょっと失くし物をしちゃって……。ホテルの方に探してもらったりしたんだけど、結局見つからないまま帰ってきたんだ」
「失くし物……?」
コートを脱いだり、バッグの中の資料をデスクの上に置いたりしながら、遅くなった理由をそう答えると、キーボードを打つ手を休めた由里子が不思議そうな声色で訊ねてきた。