鬼系上司は甘えたがり。
 
その背中を見て思う。

ドSだし、鬼畜だし、物事を勝手に決めるし、相談も無しに強引に引っ張っていくし、甘えたいだったり、ご飯作ってやるだったり自分の気持ちを素直に言えない主任だけど、その背中はやっぱり大きくて、無条件に付いていきたくなるような、そんな雰囲気が漂っている。


さっき思いがけずドキリとしてしまったのは、きっと距離が近かったせいだろう。

しばらく恋愛がご無沙汰だからといって驚きとトキメキを間違うほど、私もバカじゃない。


「……だって鬼だもんね」


主任に聞こえないよう、ボソリと呟く。

鬼にときめくなんて、どんだけM体質なのよ。

それに、フライパンの蓋を開け、中を覗き込みながら満足げに頷く背中を見ても今は特別何も感じないし、何かが生まれる気配も全くない。

私は下僕、主任が甘えたいときに呼ばれる便利な存在であり、これからだってそれ以上のことは断じて起こり得るはずもないのだから。


それからしばらくして、パエリアのいい匂いを漂わせながら主任がローテーブルに戻ってきた。

一心不乱に顧客データに目を通していた私がその匂いに思わずバッと顔を上げてしまうと、きっと目がキラキラと輝いていただろう私を見た主任は、意地悪くほくそ笑んで毒を吐く。
 
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