ターゲット
出た直後、
「ごめんね、ありがとう。」
とすぐに私はお礼を言った。
「え?」
何故か驚かれて、少し戸惑い「あっ、えと…」。
「あ、気にしないで。」
ニコッと笑う如月さん。
美しいっ、と私でも思った。
まるで、これが当たり前の行動と言わんばかりだった。
しばらく、沈黙が続き静かな廊下を歩いていると
「朝、なにかあったの?」
如月さんは、聞いてきた。
「あ、実は…」
と、朝あったことを話すと如月さんは顔を青ざめた。
「そんな…ひどい…。」
「……うん。」
「もしかして、翔太くん保健室にいるんじゃ?」
「私も思ってた…」
「急ごっ!」
手を持たれ、走る。
保健室に着くと、そ〜っと中を覗いた。
「きゃはははは!」
甲高い笑い声。
間違いなく、杏珠達だ。
耳を澄ますと、
「ねぇ~?」
「別れちゃいなよ~」
「ブスー!」
「っ…ふぅ…うっ」
すすりなく声が聞こえた。
「お前ら本当最低だな!いいから、どけよ!」
「いーや!翔太が悪いんだよぉ?」
「あぁ?なんで俺が悪いんだよ!それに、彼女は関係ねぇだろ!」
「昨日私を拒んだじゃん」
「はぁ?意味わかんねぇし。どけ!」
「いや!」
…論争だ。
こんなかには入れない…。
と、思っていたが如月さんは「行くよっ」とガラりとドアを開けた。
シーンと静まる、保健室内。
3人が翔太と彼女を取り囲んでいる。
彼女は、座り込んで泣きそれに多いかぶさるように翔太がいた。
「あれ?美月?」
杏珠は驚いた表情を少し見せた。
「なにしてんの。」
如月さんは怒っているようだ。
「え?別にー?」
「てか美月こそなに?」
私は存在無視されている。が、とにかく見守った。
「やめてあげなよ、翔太君も彼女さんも…可哀想だし、ひどいよ!」
「はいはいはいはい!」
杏珠は、その場から少し離れると優も千里も離れ、保健室にある長いソファに腰かけた。
「で?」
腕を組み、脚を組、明らかに上から目線な態度。
「…翔太くん、彼女さん大丈夫?」
如月さんは駆け寄る
「ありがとな…ほら、行こう。」
彼女さんを立ち上がらせ、保健室から出ていく翔太くんら。
そして、突っ立っていた私に翔太くんはペコリと軽く礼した。
私なんかなにもしてないのに…。
「みんな、帰ろ。数学の先生が怒ってる。」
如月さんは、呼びかけると私にチラ、と視線を送った。
これはなんの視線…?
「あー、めんどい。パス!」
「私もー」
「ぱーすーぅ」
「…じゃあまともな理由が欲しい。
先生が納得する理由…」
如月さんは、またチラと視線を送った。
…私にしゃべれってことかな。
…うぅ、怖いよ。
…
震えた手を抑え、
「…り、理由だけでも教えて…」
一斉に私に視線が送られた。
冷たい目でとても怖い。
ドクッ
「じゃあ…」
ドクッ
「生理にしとけば?」
ドクン…
それを私に言えと?
意地悪そうな笑を浮かべた杏珠にコク、と頷き「…わかった。」と言い保健室から出た。
「………。」
如月さんは黙って私と同じように保健室から出た。