浮気者上司!?に溺愛されてます
恭介に誘われて足を踏み入れたリビングのソファに、紫乃さんがふて腐れたような表情で座っていた。
ソファに大きく凭れかかりながら、腕組みして、細い足を妖艶に組んで。
初めて向き合ったカフェでの姿を思い起こして、私は身体の脇で手をギュッと握りしめた。


いつもとそれほど大差ない恭介の表情と紫乃さんのこの様子だけでは、これまで二人の間にどんな会話がなされていたのか想像も出来ない。
ううん、出来なくて当然。
私は二人の夫婦の姿を知らないんだから。


だから、今、突然乗り込んだ私がいきなり何を話し出しても、それほどおかしなことにはならない、そう思った。


「……ごめんなさい」


お茶を淹れようとしてくれたのか、リビングを出てカウンターキッチンの向こう側に回った恭介が、私の呟きを聞いてフッと顔を上げたのがわかった。
私が声を向けた相手、紫乃さんは、姿勢を崩さずに目だけを上げて私を見つめている。


「私、恭介と紫乃さんが二人で過ごす時間、奪ってしまいました。……ごめんなさい」


付け加えるように繰り返すと、紫乃さんは息をつくように笑って私から顔を背けた。


「今もよ。あなたが来なければ、宣言通り、恭介を全裸で夜道に転がせたのに」

「嘘。紫乃さんに、そんなこと出来ませんよね」

「……バカにしてる?」


再び向けられた鋭い視線に、一瞬私は竦み上がった。
それでも大きく息を吸って、紫乃さんから目を逸らさないよう、必死に足に力を込める。


「だって紫乃さんは、恭介のこと、本当に好きだと思うから」
< 191 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop