月はもう沈んでいる。
「送るから、乗れよ」
持ち主に蹴とばされた陽の自転車を尻目にサドルへまたがると、
「朔だけでよかった」
陽は荷台に座って、つぶいた。
「男子は朔だけいればいい。朔以外、いらない」
「どんなハーレム中学だよ」
はははと乾いた笑いをこぼせば、ドンッと背中に重い頭突きを食らって。
「朔じゃない男子は、きらいだ」
シャツ越しに生温かな息遣いを感じれば、途端に頬は熱を帯びた。
陽の言葉はこそばゆく、ほんの少しだけ、せつなくて。
「明日……迎えに、行くから」
返事がなくても「寝坊すんなよ」と続けた。
髪が短くても言葉遣いが乱暴でも、陽は男じゃない。誰より知っている俺がただ一言、友達に言えばよかったんだ。
俺は陽によそよそしい態度をとるのをやめた。陽も吹っ切れた様子だった。
そもそも女らしくないだけで、悪い奴じゃないんだよ。
夏に入る前。喧嘩に発展することはあっても、男女関係なく陽の周りには人が集まるようになっていた。あの夜はなんだったのかと思うほど。俺の葛藤はなんだったのかと思うほど。
中学は楽しかった。何かが大きく変わるわけでもなく、高校では同級生がまた増えたくらいで、時間が許す限り楽しんだ。
――陽と付き合わねえのわ?
ときたま、そんなことを言われはしたけれど。
なんでだろうな。
俺は陽と一度だって付き合いたいと思ったことはない。
ずっと一緒にいて、数え切れないほど笑い合って、とっくに女としても意識しているのに。
――「朔以外、いらない」
俺はあの夜から、バカみたいに陽の言葉を信じていた。