月はもう沈んでいる。
「まだ何も始めてないのに、目指すことも許されないなんておかしい!」
「来月には3年になるのに、まだ何も始めてないほうがおかしいんだよ」
「だったら一言がんばれって言えば済む話だべや!」
「済まねえから止めてんだろっ」
「自分が何も考えてなかったから焦ってるだけだべ!? みっともねえことしてんじゃねーよバカ朔!」
「はあ!? 俺の進路はとっくに決まってんだよ! だいたい、おまえが大学受験するなんて知られてみろ! あの親父が何するか――っ、」
陽はそばにあった鞄を引っ掴み、投げてくるかと構えれば、顔を怒りに染めたまま立ち上がった。
「親父にビビッてたら、何もできねえべや!!」
弱虫!と部屋を飛び出していく陽に苛立ちながら、納得もしていた。
もがいて作った傷より、無抵抗で傷つけられるほうが、痛い。
「陽の家って、なんか変なの?」
そう訊いたのは、引っ越してきてから3か月も経っていない頃だったように思う。
互いの家の中間地点にある自販機が、俺たちの待ち合わせ場所だった。約束をしなくてもなぜか、会えた。
日が暮れるまで遊べるのも、夜中に抜け出す遊びをするようになったのも、気が合うからだと思っていたけれど、違和感はあった。
村の大人たちは事あるごとに俺たちを組ませようとする一方で、どこか哀れみの目を向けていたからだ。
「おとーさんが、仕事さ行かんで、朝から酒飲んでる」
いつもじゃないよ、と陽は微笑んだ。俺は3か月前に存在を知った、昼間から酒をあおる祖父を思い浮かべていた。