月はもう沈んでいる。
陽の一生を、あの親父のそばで終わらせたくない。陽のしあわせは、俺のとなりに居続けることじゃない。
必要であればいくらでもそう胸に刻んだし、悟られないように振る舞ってきたつもりだ。
俺は陽を、引き留めない。
だから3年にあがって1年ぶりに同じクラスになったとき、二度とすれ違わないように、これまでの不満を全部ぶつけてやろうと思った。向こう見ずな性格も、暴力的な一面も、いつまでも返ってこない私物から、果ては奪われた飯の恨みまで。
謝るから許せと笑った陽はやっぱり、俺が本当に欲しいものなんて何ひとつ分かっちゃいない。
隠れて居残り勉強をする陽を、赤点を取らなくなった陽を見るたび俺は声をかけ損ね、俯いた。
「俺以外、いらないんじゃねえのかよ……」
余計なことは言うくせに、肝心なことは言えないまま。俺の未来予想図は真ん中からちりちりと焼かれ、ついには塵になってしまった。
そうして陽は合格しようとしまいと故郷を出て行くと秘密裏に決めて、ふたりだけの卒業式をしようと言ったのだ。
それはとても勇敢で、ひどく切ない決意のかけら。
逃げるように。隠れるように。誰に祝われることもなく。
朝になれば陽はたったひとりで、姿を消してしまう。
「なんつー顔してんのや、朔」
陽の声に顔を上げた。いつのまにか俯いて、黙ってしまっていたらしい。
俺は「べつに」と答えた。答えになっていなくても、どうせ突っ込まれないだろうと見越した上でそう言った。
この1年、喧嘩らしい喧嘩をしなかったのは、いがみ合う暇があるなら、少しでも長く一緒にいたかったからなんだよな……。
それなのに、どうしても。
あの大喧嘩をしてから会わなかった数週間より、今のほうがずっと、すれ違っている気がする。