月はもう沈んでいる。
「おーい。朔、……朔ちゃーん。スマーイルッ」
両頬に人差し指を付けて満面の笑みを浮かべる陽は、つられない俺にへにょりと指を曲げた。
……やめろ。そんな目で俺を見るな。力なく笑ったりすんな。
足元に、俯いた自分の影が落ちる。飲み込んだ言葉が激情となって、じりじりと喉奥を焼いていた。
その間、陽がどんな表情をしていたか知る由もないけれど。
「朔、ありがとう。……大事にするね」
次に見た陽は胸元のネクタイをそっと握りしめ、瞼を伏せていた。
嬉しさと悲しみが混然とし、期待と後悔が互いを飲み込んでは追い越してを何度繰り返しただろう。
喜ばせたくないのに。離れたくなんか、ないのに。
俺は陽の合格を願わないのと同じくらいの強さで、陽のしあわせも願っていた。未来にはせる夢など破れてしまえと呪う一方で、陽のしあわせが俺のとなりにあればいいのにと夢も見た。
夢は夢のまま。後悔は後悔のまま。からだの中で濁ってこごって呼吸をしんどくさせる。
やり残したことなんて、最初からひとつしかなかった。
「そんなもの大事にして、どうするんだよ」
このまま笑ってさよならとか、できるわけないだろう。
できるわけがないんだ。
俺が本当に欲しかったのは、10年一緒にいた証でも、ありがとうなんて言葉でもない。
「頼むから……っせめて、答えをくれよ」
――なあ、陽。
俺がおまえにしたことは、なかったことにされるほど、未来のないものだったのか。