月はもう沈んでいる。

「俺もね、じいちゃんや母ちゃんにぶちまけたい怒りは、腐るほどあったよ」


まだ薄暗い廊下で今までの10年を、これからの10年を、想う。


「だけど我慢してた。傷つけるかも。悲しませるかも。嫌われるかもって……。思ったこと全部言えばいいってもんじゃないだろ」

「……そうさな」


俺は耳がいてぇが、とじいちゃんは言う。


「朔みたいな奴のおかげで、生かされる奴もいんだべな」


教室へ振り返り、窓辺に立つ陽の背中を見つめた。


「俺は、陽に生かされたよ……」


狭い村で窮屈な思いして、納得いかないことばっかで、母ちゃんや田舎のせいだって思っていたけど。


どこでどんな風に生きようが、すべてが思い通りになる人生なんてあるわけないんだって、悲しいほど陽に教えられた。


夢を描くことも。楽しむことも。負けずに立ち向かうことも、陽が全部教えてくれた。


情けないよな。先導しもらってばっかで、守り抜くこともできなくて。


「だから俺はいつか、絶対、陽をしあわせにするんだ」


今はできない。離れたくないし、ふたりで暮らせたらと何度も想像したけど。


俺たちのしあわせはいつだって、物足りない。


「俺は、陽と一緒になるなら……みんなに祝福されたい」


難しいと分かっていても。俺以外いらないってもう一度言われたとしても。


想像できるいちばんのしあわせを、求めずにはいられない。


「……消息を絶つ陽と、それに助力した朔って印象は、一生つきまとうぞ」

「いつか、よくやったって言わせてやる」


しん、とした電話越しから、大笑いが届く。
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