月はもう沈んでいる。

「さすが、おれの孫。杞憂だったなや」


……ああ、そうだった。
この人は、口では厳しいことを言っても、思いやりを知っている。きっと、いちばんに、「よくやった」と褒めてくれる。


しあわせだな。しあわせだったんだな、俺。


そう感じた途端、気も、涙腺も、緩んでしまった。


「じぃちゃん……俺を、バカだと思う? 引き留めなくても、約束なんてなくても、絶対また会えるって、信じてるんだ」


さわさわと風に揺れる木々の音だけが鼓膜を揺らし、朝焼けに縁取られる陽のうしろ姿が唇を震わせる。


知らん。と、低い声が電話越しに響いた。


「信じてるっつうなら、自分で確かめらい。おまえのいちばん大切なもんが、応えてくれるうちにな」




遠くから、古い車の走行音が聞こえる。町が、人が、今日という1日を動かし始めた。


「陽」


教室へ戻ると、橙色に染まったふたつの瞳が俺を映し出す。


「じいちゃん?」

「うん。卒業式、出席するらしい」

「うわー。いきなし派手なスーツ着てきそう」


ぶふっ、と思わず吹き出してしまった。不覚だ。


フォーマルで来るよう連絡しなければと考えていると、「リカが来たよ」と陽は遠くの田んぼを指さした。


目を凝らすが、豆粒みたいな人影がいるにはいるってことしか分からない。


「眠れなかったんだ、あれ。前にも緊張しすぎて吐きそうになってたし」

「まあ、今日はさすがに言えんべ」

「卒業式だしな」


クラスメイトの告白の行く末を思案する俺たちは、今日、卒業する。

高校と、目に見えないしがらみと、互いから。
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