~Lion Kiss~
「いいよ、もう何も聞きたくないから。
來也の事なんて、もう何も知りたくない。あなたは治人さんと一緒だよ。金持ちは訳がわからない。理解不能だよ。そして、私とは住む世界が違うんだよ」

私は札をテーブルに置くと立ち上がった。

「さよなら、來也」

翔吾くんが心配そうな顔をしてこちらを見ていたけど、私はそのまま店を出た。

外の空気はぬるくて、皮膚にまとわりつく感覚が不快だったが、そのときの私にはそれも良かった。

ああ、夢のようだった。

いや、來也との生活は、本当にひとときの夢物語だったのだ。

もっと泣くかなと思っていたけど、想像より涙は少なかった。

それは多分、あの部屋で泣き倒したから。

そして心のどこかで、自分が來也とは釣り合わないとわかっていたから。

「さよなら、來也」

バイバイ私の、特別なライオン。

私は大きく息を吐き出すと空を見上げた。

どこにも星は見えなかった。
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