マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
練習室からはピアノの音がした。
聞こえてくるのは、コンチェルトではない。
ということは、梁瀬さんだ。


ノックしてから部屋へと入ったが、当然耳に届いてないようだった。

「梁瀬さん!」

強めに声を掛けてみる。
ビクッと前のめりに肩をすくめて、こちらへ振り返った。
マンガみたいな一連の動作だ。


「昨夜から何も食べてないですよね。食べて
下さい。ちゃんと。」

ピアノの前に回り込み、買ってきたものを並べた。


「…あー、ありがと。そう言えば、お腹空かな
いから食べてない事、今気づいたよ。」


虚ろな目でチョコレートを口に入れた。


それを見て私は、自分が眉をひそめている事に
気付いた。
……これはもうダメだ。アウトです。


結局梁瀬さんが口にしたのは、コーヒーとチョコレート2粒のみだった。
< 138 / 288 >

この作品をシェア

pagetop