マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
梁瀬さんが動揺しているであろう様子が、見てとれた。


「梁瀬さん、飛行機の中でおっしゃってまし
たよね。やるべき事をやれば良いだけた、っ
て、だから…」「奏ちゃん。」


意思をもった呼び掛けで遮られる。


「今回の公演が終わったら、ちょっと考えて
みようと思う。」


あ、やな予感。


「…考えてみる、って何をですか?」

「身の振り方。指揮者を続ける事に自信がな
くなってきたんだ。」


この流れを裏切らない言葉だった。


「今回の事で見に染みて分かったよ。
僕はホントに一回失敗したらずるずると引っ
張ってまた余計な失敗を招くんだ。
楽団員に対しても、上手く取り入ろうとして
顔色を窺う所があるし、指示を出す時もお願
いするって感じだし、そんなお人好しの指揮
者なんて要らないんだ。
もっと独裁的であるべきなんだろうけど、僕
には無理なんだ。性格なんてそう簡単に変え
るこ…」


自分の手が震えているのに気付く。


…手をぐっと握りしめる。もう。
もうこれ以上聞きたくない。
我慢の限界だった。





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