マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
ほとんど衝動的で、本能的で、反射的な行動だった。


椅子から立ち上がった私は、テーブルに置いてあったペリエの蓋を開け、梁瀬さんの頭から掛けた。
怒りで興奮している頭の中とは対照的に、それは穏やかに流れ落ちていく。


中身を全て出し切ると、空いたボトルをテーブルにカランと転がし、悪意剥き出しの大きな音を立ててドアを閉め、部屋から出た。


カツン、カツン、…カツ、カツカツカツカツ。
どんどんと足を速める。


夕方の時間帯。
フランスだって治安は良くないはず。
でも私は、一人でシモーヌさんのアパルトマンを飛び出して来た事を、後悔していなかった。
暴漢がいたなら、何ならこっちから襲いかかりそうなくらいだ。

その位頭にきている。


…ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく!


あんなに才能があって、第一線でやれているのに、どうしてあんな台詞を吐けるのか。

驕ってる!

私みたいに叶わない夢にすがり付いてる、底辺に居るような人間はどうしろっての!
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