マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
ろくすっぽ食べずに、シモーヌさんのアパルトマンを飛びだして来たものだから、空腹と怒りに耐えた一晩だった。


が。


酔っぱらいの酒が抜けてしまった様に、一晩経てば怒りも収まってしまう。
しゅるしゅると音を立ててしぼむ。


どうしてあんな怒りに任せた行動が、出来たもんなんだか…。
導火線が短いだけに、後から冷静になれば物凄い自己嫌悪。


あの時、梁瀬さんは梁瀬さんなりに凄く悩んでいたはず。

例え同じ事を私が経験したとしても、私には蚊に刺された様なものであっても、梁瀬さんにとっては、ナイフでえぐられる様なものだったかもしれないのに。

確かに後ろ向きで、短絡的な発言は興奮が収まった今でも、イライラ来るけれどー。
それにしても、だ。


頭から水をぶっかけるなんて、やっちゃいけない。
マネージャーとして。いや、人として!


このまま年を取っても、この性格が丸くならなかったらどうしよう。
そんなことを考えながら、梁瀬さんの部屋の前に立ち、控えめなノックの音を立てた。



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