マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
はあ、と思いが詰まった溜め息をつき、ホントは余り言いたくなかったんですけど、と前置きした上で奏ちゃんは話を続ける。

「一番ショックだったのが、マエストロのピ
アノの弾き振りでした。」

「……僕?」

意外な名前が出てきて驚く。

「ハイ。」

背を預けた椅子から居住まいを正し、改めて僕に向き直ったが、目は虚ろだった。

「指揮者だしある程度はピアノを弾けるとは
思ってましたけど、その予想を遥か上を行く
レベルでした。」

「……そうかな。」

奏ちゃんは力なく頷く。
それはどうもありがとう、なんて続けられる雰囲気ではない。

「もう、なんていうんだろ。頭をぶん殴られ
る衝撃、ってこういうんだなー、って。
才能溢れる人物と、箸にも棒にもかからない
凡人との差っていうのをまざまざと見せつけ
られて。」

「……。」

「悲しいんだか、悔しいんだか、やるせない
想いが押し寄せて、その上オーディション受
けた事務所からはお祈りメール届くし、自分
で自分の事が嫌で嫌で 、もうどうでも良くな
って。
………で、マエストロに抱きついてました、
気づいたら。」

「……あの時の事?!」



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