マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
コクン、と奏ちゃんが頷く。

“剣によって与えられた傷は剣で癒すしかない”

何だっけ、ダフニスとクロエ……、じゃないな
ワーグナーのトリスタンとイゾルテだっけ?
意味こそは違うかもしれないが、僕の脳裏に浮かんできたのは、何故かそれだった。


僕のピアノを聴いて衝撃を受けて、オーディションにも落ちて、投げやりになった気持ちの捌け口のセックスの相手もまた僕で。

……はああ……。

何だかホントに誰でも良かったんだなって、改めて思う。たまたま、近くに僕が居ただけなのか……。


「さっき訊かれた時にためらったのは、仕事
を辞めたいと思ってる事も言わなくちゃなら
ないのと、マエストロに抱いた身の程知らず
の嫉妬心をさらしたくなかったんです。」

「……身の程知らず、って……。」

「だって、私が逆立ちしでても叶わない様な
演奏をするような人から、プレゼントを差し
出されて。それで、私に愛を乞うマエストロ
を見てるうちに、何だか酷くいびつで歪んだ
関係だって思ったり………っ!
……サイテーでしょ。」

段々と感情が高ぶっていった様で、奏ちゃんの
声は震え、目尻は赤みを帯びていた。

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