マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「ユーヘイ、悩んでたから。」(仏)

「え?何に?」(仏)

「カナデの夢に対して、自分が出来る事と
しなくちゃいけない事。」(仏)

シモーヌが力なく笑う。

……しなくちゃいけない……?

何だろう。何だか気になるし、それを気にかけて欲しそうな含みを持たせた言い方だった。

「それは当人から訊いて。」(仏)

「………。」


あれ、そういえば。

「そういえば、マエストロは?」(仏)

「え?未だ楽屋じゃないかしら。事務局では
見てないから。」(仏)

それからシモーヌと別れ、医務室を後にした。
楽屋へと向かう途中、何人かの楽団員の人達に
すれ違い様、おめでとうだのお幸せにだのと、
声が掛けられる。……ぐっ。

シモーヌと話をしていたら、ある程度の怒りが収まったはずだったのに、ここへ来て再びギリギリと奥歯を噛み締める思いがよみがえっていた。


……ただじゃおかない。


部屋の前に立ち、殺意を込めたノックをしたが返事はない。
そういえば、キーは私が預かってたんだった。
事務局に頼めば開けてもらえたかもしれないが
ともかくここにはいない様だ。

じゃあ、どこに?
思い当たる所はないかと、考えながら歩いていると微かにピアノの音が耳に入ってきた。

……練習室の方だろうか。
そちらに足を運ぶにつれ、音がはっきりとしてきた事で確信に変わる。

甘い密に引き寄せられる蝶の様だった。

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