マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「…………。」

ソコに居るのは分かってるんだ、の気持ちでドアをノックする。

「……入りますよ!」


一声掛けてから開けた部屋の中に、驚いて声も出なかった。


「……奏ちゃん……?」


電気も点けず、明かりと言えば窓から入る月明かりや街灯だけ。
そんな仄暗い部屋に燕尾服を着た男の人がピアノの前に座っているのを見て、驚かないわけがない。声を上げなかっただけでも、良い方だ。

そして、驚いたと同時に息も飲む。

月明かりに照らされ、輪郭だけを型どりピアノの前に座るマエストロは、まるで額縁に飾られた一枚の絵みたいだ、そう思えた。


「奏ちゃん?」

二度目の呼び掛けで、ようやく戻ってこれた。


「び……っくりした……。何で電気点けないんで
すか?」

自分でも分かる、やっとこさの声を出して訊ねた。未だドキドキしている。

マエストロは、んー、と窓を見やり、

「キレイだったから?」

と質問に対して、疑問形で答えた。

「………。」

のんびりした口調と雰囲気に呑まれ、気勢を殺がれる。
あんなに気色ばんでノックしてたのに。


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