マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
……はあ……。

思いっきり溜め息をつきたくもなる。
ピアニストの夢も、海外へ留学する事も、マエストロを拒否する事も、諦めて欲しいと。
……そう言う事?

……はあ……。


私がマエストロを見つめる眼差しは、憐憫を含んだものであっただろう。その見つめる先に、
マエストロのシャツのボタンが、一つ段違いになっているのに気付いてしまい、尚更だった。

子供のパジャマの着方じゃあるまいし……。
演奏中、マエストロのすぐ前に座って演奏してた楽団員は、さぞや気になっただろう。

この人はこんな時にまで、つくづく、マエストロ、なのだ。
ホント、溜め息もつきたくもなるし、脱力ものだ。


だがそれと同時に、マエストロの手が小刻みに震えているのにも気付いていた。
その瞬間、じんわりとしたものが胸の中で広がっていった。多分、愛しさなのだろう。初めての感情だからよく分からないけれど。


……しょうがない。多分、マネージャーの仕事を引き受けた時からこうなる様に、なっていたのかもしれない。
流されるとか、絆されるとか、今の情況を表すにはぴったりだ。

高校生の時とは、また違う流され方だろうな。
……そう言えば、あの時。
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