マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
まさか。まさか。
切り札って私の事?
んな訳ない。
そう思いながらも心臓はバクバクしている。



今思えば、どっからそんな勘違いが出てきたんだか。
…恥ず。
シモーヌさんもシモーヌさんだ。あんな意味ありげな笑みを見せちゃってさ。
兎に角この時はそう思ってしまったのだ。



マエストロは私がずっとピアノをやってた事を
叔父さんから聞いて知っているはず。


はっきり言ってコンチェルトの経験なんてない
コンクールはいつもファイナリストに残る事なんて出来なかった。
せいぜいバイオリンやフルートの伴奏や室内楽の経験位しかない。


それでも根拠のない自信は膨らんでいく。
どんなに疲れて帰った日でもピアノを触ることを私は怠らない。
私はまだ諦めていない。諦めきれない。
そんな漫画かドラマみたいな事あるわけないと
思いながらも。


それから数日たっても、マエストロからも事務局の人からも当然、何らコンタクトはなく、

「奏ちゃん。ずっとピアノやってたんでしょ
代役やってみない?」

なんて言う漫画やドラマみたいなサプライズは当然なかった。
代わりにレッスン室からピアノの音が聴こえる
様になる。


「切り札」が依頼を受けたのだと、私は複雑な思いでピアノの音を聴いていた。


そしてゲネプロ(通しリハーサル)で、漫画やドラマ以上の現実を目の当たりにして、私は愕然となる。
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