マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
アイヴスの曲だけでなく、他の曲にまで当然、
影響は及ぶ。


「ホルンのファーストとセカンド。もう少し
お互いの音色を近づけて。」(仏)


「ティンパニとピアノがどうしてもズレる。
ピアノの方が早い。もう一度。」(仏)


「先ほどの所をもう一度。」(仏)


金管が音を外した。
技術的なミスが出た。まとわりつくような重い雰囲気が漂い始める。


「ホルン。そこは後ろに引っ込む様な感じで
音を濁らせて。」(仏)


「それでは先ほど指摘した所と矛盾しません
か?」(仏)

あ。


水の中で足をバタつかせるほど、どんどん体は沈んでいき、零れないように両手手のひらを丸めても、指の隙間からこぼれ落ちていく。


「…すみません。その通りですね。」


苦笑いは、もはや何の役割も果たさなくなった

結局時間切れとなり、その日のリハが終わった
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