元通りになんてできない

高野紳一郎

-高野部長として-

鷹山薫、30歳 配偶者有。子供(未就学児)1人、か。
三歳か…まだまだ手がかかる年齢か…。

俺は人事から来た書類に目を通していた。

何故、そんな年齢の子を預けてまで働く…。旦那が居ても、何か訳ありなのか…。まあ、そこは立ち入らない。仕事をすることに関係はない。

とにかく、仕事が出来る奴ならいい。若いやつがダメとは言わないが、無駄が多い。
無駄口が多いと言った方がいいか。
一つ頼めば要らぬ言葉が返ってくる。一つ終われば、要らぬ事を喋る…。

鷹山薫。
結婚前はバリバリやってたようだが、ブランクは本当のブランクだろうか…。履歴に書かずに何かしていたかもしれない。
たかが事務処理、されど事務処理だ。
戦力になってもらわないとな。採用した意味がない。
お手並み拝見といきますか。


「鷹山君」

「はい」

「これを午前中に頼む」

「…。」
(?、どうした…)

「あの、2枚目のこの部分と3枚目の此処、内容が重複しているようです。どちらか削除しますか?」

「…3枚目を削ってくれ」

どうやら指示された事をやるだけの奴とは違うようだな…。
…試して悪かったな。


「部長、確認をお願いします」

「もう出来たのか」

「…はい」

「ん、ご苦労様。…大丈夫だ」

「失礼します」



「コーヒー、お持ちしました。どうぞ」

「ん、ああ、有難う」

今までは勝手に飲んでたコーヒー。昔、女性はお茶くみではないと主張された事がきっかけでずっとそのままだった事だ。鷹山が来るようになってから、役席には朝こうして出してくれるようになった。特に他の者に気を遣わせないように、自分のついでだと言って。
…旨い。コーヒーもだが、鷹山が入れると粗茶も粗茶以上に旨くなった。
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