竜宮の御使い
銀髪の男に抱きかかえられ、藍色の髪の男に寄り添われ廊下を進む。
途中何人かの人にすれ違ったが、顔はベールの様な物で目以外を覆われていて、私たちを見ると壁により頭を下げるだけで、挨拶一つできなかった。
 白を基調とした丸い天井が印象的な廊下を進むと、突然壁が消えて視界が開けた。

「こちらが私たちが暮らす城とあなたが現れた神殿を繋ぐ唯一の橋です。」

「橋?!」

 何故廊下ではなく橋なのか?銀髪の男の言葉にそう思ったのもつかの間、私は目の前に現れた絶景に目を奪われた。
そこは辺り一面水だった。言いかえれば巨大な湖の中央に私が先ほどまでいた神殿と言われる建物と目の前の城が建っている。
城は寝殿造りの様な形でどこか懐かしい感覚を覚えたが、その巨大さと純白の美しさに圧倒され思わず息をのむ。しかし、水面の光に出らせれてキラキラと輝く城壁はどこか幻想的に思えた。
湖の向こうには街並みが見え、そこに続く石橋が城の方から伸びている。
 橋の下をのぞくと透明度が抜群に高く、水面は日差しにきらきらと輝いている。エメラルドグリーンをもっと透明にしたような美しい湖は底の深いところはその色を濃くし静かに凪いでいた。

「す…ごい…。綺麗…。」

反射する日差しの眩しさに思わず目を細める。

「身体が回復したらこの湖を案内しよう。この湖の美しさはこれだけでは無いぞ。」

藍色の髪の男がゆっくりと私の髪をなでる。
学生時代から伸ばしていた髪は今は腰のあたりで切りそろえられている。コンプレックスの塊の様な体のなかで唯一自慢できる、美しい黒髪だった。

「はい…。お願いします。」

その手があまりにも心地よくて思わず返事を返してしまう。どこの誰ともわからない男にこんな事をするのは初めてだ。

「では、そろそろ行きますよ。あまり外の風に当たっていては体に毒です。神の繭玉に入っていたとはいえ、まだ完全に治癒したわけではありませんからね。」

銀髪の男はまた歩き出した。

「神の繭玉…?それはなんですか?」

疑問をぶつけると銀髪の男はその柳眉な眉がしらをよせた。

「あなたはこちらの世界に召喚された際、とてもひどい怪我をしていました。心臓が動いているのが不思議なくらいで酷い怪我で…私たちも手の施し世がありませんでしたが、突然あなたの体を淡い光が包み、あっという間に白い繭になったのです。」

…そうか、真っ白な世界に居ると思ったのは繭の中に居たからなのね。

「繭には龍神の紋章が刻まれ触れることすらできなかったが…今日初めて繭に触れそなたをこの腕に抱く事が出来た。」

藍色の男はどこか嬉しそうだ。

「今日初めてって…私どれくらい繭の中に居たのですか?」

記憶では一瞬…いや龍神様と御話ししてたから10分くらいの感覚なんだけど。

「5年だ。」

「5年!?」

 なにそれ?!5年って…どんだけ酷い怪我だったの?龍神さまは何も言わなかったのに…。ってことは私…今35歳?!
今の自分の年齢を確認して思わずうなだれる。30歳でも結構ショックだったのに…何もしないうちに35歳…。私の様なおデブな女では婚期どころか恋愛適齢期すら最早通り過ぎてしまっている。

「初めてあなたを見て、繭に入ってから5年…。ずっとこの日を待っていました。やっと…やっと…目を開けてくれた。私たちの愛おしい番。」

感きわまるように銀髪の男が私の髪にそっと顔を寄せる。心なしか抱き上げる腕が強くなった気がした。

「毎日毎日そなたを思い神殿に通っては繭の外から見るだけだった。しかし、もうこんなにも近くで触れる事が出来る。」

藍色の男は恭しく私の右手を握った。
 な、なに…!?この逆ハー状態…。今まで経験した事がないくらい熱い視線が私を捕えて離さない。じわじわと頬に熱が集まるのが解る。
 うるさく跳ねる鼓動を胸に押し込め、私は成す総べなく真っ赤な顔で二人の美丈夫を見上げた。

「「可愛い番。我ら(私たち)の愛おしい半身。」」

見事なユニゾンで両頬に二人の唇がそっと触れ、その熱に耐えきれず私は意識を手放した。
 もう何年も恋愛なんぞしていない、男に触れられていない私に極上のイケメン…しかもツインズなんて耐えられなかった…。
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