それでも君が必要だ

智史さんはしばらく黙っていたけれど、そっと私の頭に手を乗せた。

「そっか」

大きな手でポンポンと頭を撫でられたら心地よくて、思わず目を閉じた。
でも、涙は全然止まらない。

智史さんが息を吸う音が聞こえた。

「おいで」

囁きと同時に頭に置いてあった手が頬を滑り降り、私の手をぐいっと引いた。

「!」

頭がふわふわして思い通りに体が動かない。

目が回ったようによろめいて引き寄せられたら、柔らかくトサッと胸の中に抱き止められた。

目の前に白いシャツの生地。
男の人の硬い体。

一瞬怯えて体がこわばる。

でも、腕の中にそっと包み込まれたら、その体温に恐怖は静かにとけていった。

柔らかいシャツの生地が頬に当たって、涙がシャツに染み込む。「いけない」と急いで体を離したら、大きな手で頭ごと胸に押し戻された。

「あっ!シャツが濡れちゃ」
「いいから!」

「……」

被せるように言われたら、何も言えなくなってまた涙が出てきた。

温かい胸に頬を押し付けられたまま小さく鼻をすすって、涙が生地に吸い込まれていく様子をぼんやり眺める。

でも、智史さんが大きく息をして胸が上下したら、ハッとした。

今、私、男の人に抱き締められてる!?

自分の状況に気がついて目をパチッと開いたら、一気に鼓動が跳ね上がった。

シャツの生地の向こう側に、智史さんの肌の質感を感じる。

カァッと頬から耳まで熱くなって息を潜めた。

ドキドキ、トクトク。
聞こえてくるのが自分の鼓動なのか智史さんの鼓動なのかわからない。

こっそり息を整えながらじっと耳を傾ける。

さっき、後ろから抱き締められた時とは違う、腕の中に優しく閉じ込められている感覚。

ぬくぬくして、あったかい。
力が抜ける……。

不思議と心が落ち着いてきた。
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