それでも君が必要だ
「食べ物に味があるって当たり前だと思ってたけど、美和さんにとってはそうじゃなかったってこと?」
バカみたいな話なのに、智史さんはちゃんと真面目に聞いてくれる……。
本当に優しい人。
「はい……。でも、キャラメルがすごく甘かったから」
「だから泣いちゃったの?」
「……そうかも、しれません」
「そっか」
少し黙ってから智史さんは息を吸った。
「美和さんはいつも緊張して食べてたのかな?特にお父さんの前ではさ、神経使ってたんじゃない?だから、味は二の次だったのかもしれないね?」
「ああ……」
そうなのかも。
コクリとうなずく。
私、父の逆鱗に触れないよう常に気を張って、ただそれだけに集中していた。
それが当たり前だと思っていた。
でもそれって、どうなんだろう。
おかしい、よね?
自由に食べちゃいけないなんて、おかしいよね?
『歩くのもそうだけど、食べるのだって合わせることはないんだよ?』
さっき智史さんにそう言われた言葉がやっと自分の中にストンと落ちてきた。
さっきは自由にするってどういうことか、わからなかった。私は自分の自由なペースなんて持ち合わせていないと思っていた。
でも、私にも本当はあったのかもしれない。
私のペース。
私の意思。
やりたいこと。
私、自由にしてもいいのかな?
もしかしたら。
初めて味を実感して、私は自由を感じたのかもしれない。
自分の感覚を持つ自由。
世界を感じる自由。
広がっていく世界に、突き放されるような孤独の肌寒さとその先を知りたい好奇心の輝きを感じた。
今まで知らなかった感覚……。
だから涙が出てきたのかな。
うつむいてじっと考えていたら、智史さんは私の頭に手を乗せて掴むようにワシワシと動かした。