それでも君が必要だ
あっ!髪がぐしゃぐしゃ……。
急いで両手で髪を押さえて見上げると、智史さんは優しく微笑んだ。
「じゃあ、これからは一緒にいろんな美味しいものを食べよう?」
その言葉にまた鼻が痛くなってじわっと涙がわいた。
智史さんは私に寄り添ってくれる。
こんなに優しい人、他にはいない。
お母さんは智史さんのことドSなんて言っていたけれど、全然そんなことないと思う。
智史さんは私の腰に巻き付けたもう片方の腕に力を入れて私の体を引き寄せた。
引き上げられて密着する感覚にまたドキドキする。
「美和さんにいろんな美味しいものを食べさせてあげたい。いろんな所に行ってさ。なんなら俺も作ってあげるから」
……ん?
作ってあげる?
「……智史さん、お料理するんですか?」
「うん。みんなからは案外好評だよ?」
「そう……」
どうしよう。
私、料理なんて、全然作れない……。
「なあに?その顔。男が料理するのは変?」
「いえ、そういうことじゃなくて……」
「美和さんはあんまり料理しないのかな?」
「……」
私が黙ってしまったら、智史さんはあははっと笑った。
「別に構わないよ、料理なんかできなくても。俺が作ればいいんだからさ。お互いできることを分担していこ?」
あ……。
智史さん、また結婚してからのことを考えていますね?
そんなこと、考える必要ないのに……。
……でも。
私も考えたい。
智史さんとの未来を考えたい。
智史さんのそばにずっといたい。
こうしてずっと一緒にいたい。
父に破談にされなければ……いいのかな?
でも、それは絶対にあり得ない。
父は間違いなくこの婚約を破談にしてしまう。
この婚約はシジマ工業のいい所をスイ技研に吸い取るためのカードに過ぎないもの。
……。
……そう。
そうだった。
そもそも違うんだ……。
智史さんは望んで私に優しくしているわけじゃない。
会社のために、仕方なく私を受け入れることにしたんだ……。
一緒にいたいなんて思っているのは、私だけなんだ。