それでも君が必要だ
私、バカみたい。
優しい言葉をかけられて、優しく抱き締められたりしたら、すっかり乗せられて智史さんの気持ちが私に向いているような気がしてしまった。
でも、違うんですよね?
智史さんは会社のことを考えて、不利にならないように私に優しくして父の機嫌を損ねないようにしているんですよね。
悲しくて、頭がずっしり重くなってシュンと落ち込む。
でも、仕方がない。
本当のことだから。
これが現実だから。
どんなに望んでも、何がどう転んでも、私は智史さんとは一緒にいられない。
でも、もしそうだとしても。
私は今私がやりたいと思うことをしよう。
勝手なことをしたら父に後で酷い目に遭うけれど、それでも私、智史さんのために何かをしたい。
だから、今は何も考えないで智史さんのお手伝いをしよう。
智史さんの胸をそっと押して体を離した。
「すみませんでした。……コピーの続きをやりましょう」
「もう、平気なの?」
「はい。それに早くしないと終わりませんよ?」
「うん……」
「?」
智史さん、離してくれない……。
どうして?
「……もう少しだけ」
かすれた声と同時に勢いよくギュウッと両腕に抱き寄せられた。
そのまま引き上げるように智史さんの腕が体を締め付ける。
「あっ、あの……」
さっきの優しく包み込む感覚とは違う、強引に押し付けられて密着する肌の感覚に困惑する。
逃れようともがいたら、ますます強く閉じ込められた。
動けない……。
シャツを通して伝わってくる智史さんの体温が熱い。
……どうしよう。
こんなに強く抱き締められるなんて。
ドキドキ、する。
それに、息、苦しい。
「……くる、し……」
息も絶え絶えにもがいて涙目でつぶやいたら、私を見つめる潤んだ黒い瞳と目があった。
眼鏡の向こうのその瞳が何かを言いたそうだったから、思わずじっと見つめて息を止めた。