それでも君が必要だ

「じゃあ、行こ!今日は紳士ぶって美和さんのこと、早く帰すつもりでいたからさ。材料は買ってあるんだ」

嬉しそうに意気揚々と歩きだした智史さんについてパタパタと事務室を後にする。

夕日が差し込む工場を通り抜けて、智史さんの研究部屋に寄ってコートを取ると工場の横の扉から外に出た。

外は闇が迫ってかなり暗い。
そんな外気の寒さに震えたら、ふわっとコートを肩にかけられた。

「……あ、ありがとう」

「暗くなるとさすがに寒いね」

智史さんはにっこり笑い、そして私の手を握った。

この人はこういう動きがさりげない。

智史さん、私なんかの手を握っているけれど、本当に繋ぎたい人の手は、どんな風に握るんだろう。
なんて思って密かに落ち込む。

「こっちこっち」

手を引かれて進んだその先には、古い木造二階建ての和風な家があった。

ここが、智史さんのおうち?
本当に工場のすぐ隣にあるんですね。

「古いでしょ?まあ、造りはちゃんとしてるから安心して」

「……」

黙って見上げる。
古いというより趣があって立派な家。

門に屋根がついていて、引き戸も立派だし。

「どうぞ入ってー。散らかってるけどね」

智史さんに誘導されて門をくぐり抜け、玄関に一歩足を踏み入れて驚いた。

玄関、広い!
そして本当に散らかっている!

どうしてこんなところにまで書類が重なっているの!?
もしかして智史さんだけじゃなく、お父さんも整理整頓できないの?

ああ、片づけたい……。

智史さんの研究部屋を見た時も思ったけれど、またそんなことを思ってしまった。

玄関のたたきは石造りでその先は板張りの廊下。
落ち着きのある暖かい家。

智史さんはこんな素敵な家で育ったんですね?

どんな子どもだったのかな?
子どもの頃から眼鏡かけていたの?
大きな黒い瞳で、きっと可愛かったんでしょう?
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