それでも君が必要だ

そんなことを思ってから、手料理の誘惑に負けてこの家に来てしまったことを後悔した。

この家の空気に触れていると、もっと智史さんのことを知りたいと思ってしまう。
智史さんのそばにいたいと思ってしまう。

……家に来るなんて、やめておけばよかった。

考え込む私に智史さんが声をかけてきた。

「美和さん、手伝って」

「?」

何を?
急に手伝って、なんて言われてわけがわからず首を傾げると、こっちこっちと手招きされた。

靴を脱ぎ、招かれるまま廊下を進んだその先にあったのは台所だった。

使い込まれて年季の入った台所。でも、ここには書類がないせいか綺麗に片付いている。

つまり、智史さんたちは書類の整理が苦手なのかな?

「さ、ここで手を洗ってね。エプロンは貸してあげる」

「……はあ」

コートを脱いで言われるまま流しで手を洗ったら、エプロンをかけられた。

あ、あれ?エプロンの後ろの紐がうまく結べない。
まごついていたら「貸して」と智史さんが紐を結んでくれた。

「んー!いいね!似合ってるよ。可愛いなあ」

「……」

可愛いなんて、全然そんなことないのに。
どうしてそんな思ってもいないことを言うの?

そういうの、残酷だからやめてほしい。
ドSってそういうことなの?

「じゃあ、さっそく料理に取りかかろうか」

あ……。
やっぱり。

そうですよね?
この流れで「手伝って」ということは、料理のお手伝いですよね?

料理なんて、したことない。
もちろん肉じゃがなんて、作ったこともない。

私にできることはあるのでしょうか?

不安で所在なく立ちすくむ私の横で、智史さんは手際よく材料を並べ始めた。
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