それでも君が必要だ
さっきの話を蒸し返した柴田専務に、副社長さんは冷ややかな視線を向けた。
「この件についてはまだ確認しなければならない点が山ほどあります。それをこんなに急いで事業譲渡だなんて、ありえません」
「智史君!早急に助けていただかなければならないこの状況がわからないのか?こっちだって誠意を見せなければならないんだ。智史君もお父さんと一緒になって好きなことにばかりのめり込んでいるから、自社の状況も知らないんだよ!」
言い合う柴田専務と副社長さんの間に挟まれて、社長さんは困ったようにキョロキョロしている。
好きなことにのめり込む?
副社長さんがのめり込むほど好きなことって何だろう?
ギャンブル、とか?
……そんな風には見えないけれど。
父がスッと手を前に出した。
「まあまあ、そう興奮せずに。副社長は御社の未来についてもう少し考える時間が必要なんじゃないのかね?娘のことは気にしなくて結構だよ。何の役にも立たない不細工な娘だからね。君のお眼鏡には敵わないだろう」
はあ……。
そうですよね?
私なんて見た目も悪くて何の役にも立たないから……本当にごめんなさい。
「だから、そういうことを言っているわけではっ……!」
副社長さんが少し大きな声を出した時、私の前でカタッと音がした。
ん?
なんだろう?
ひざが冷たい……。
「す、すみませんっ!」
仲居さんの焦った声につられてふと見ると、グラスが倒れてこぼれたお酒が膝にかかっているのが見えた。
「あ……」
状況がうまく掴めなくて、茫然と生地に広がっていくお酒を見つめる。