それでも君が必要だ
それから智史さんは、時々こちらに顔を向けてニコッと笑って見せながら、目分量でお砂糖をバサッと入れ、次にお醤油を適当にグルッと回し入れて混ぜ合わせた。
あれ?
お料理って『小さじ三分の一』とかそういう厳密な感じじゃなかったっけ?
智史さんは大雑把なの?
それともこれが男の料理というものなのですか?
「後はみりんを入れてっと」
あれよあれよという間に鍋の中は茶色っぽくなり、智史さんはお鍋にパタッとフタをした。
「これで十五分も煮たら完成だよ」
「そうですか」
なんて言うか、手際が良くてあっという間だった。
「あの……私、何もできなくて、足手まといですみませんでした」
「そんなことないよ。応援してくれてたでしょ?じっと見つめてさ」
智史さんはまたクフフと笑った。
また笑われてしまった。
でも、智史さん、怒っていない。
……良かった。
こんなに何もできない役立たず、怒られるはずなのに。
父の前でこんなにミスを連発したら、間違いなく逆鱗に触れて殴られていただろう。
でも、考えてみたら、あの酷い前の婚約者たちでさえ父のように気に入らないからとすぐに怒鳴ったりはしなかった。
やっぱり、普通じゃないのでは?
父の反応は普通じゃない。
あれを当たり前だと思ってはいけないんだ。
当たり前だと思っていたこと。
当たり前に帰っていた家。
当たり前のように殴る父。
私にとっての当たり前は、当たり前じゃなかったんだ。
私。
あの家に……、帰りたくない。
初めてそんなことを思った。