それでも君が必要だ
もぐもぐ食べながらお父さんが言った。
「智史の作った飯はココちゃん仕込みだからうまいよね」
「別に仕込まれたわけじゃないよ!ココちゃんが『作りたくなーい』とか言って何もしないから、結局俺が作ることになったんじゃん」
「でも最初はココちゃんに教えてもらったんでしょ?」
「まあね。あれは間違いなく嵌められたな」
親子の会話が弾む様子をぼんやり見ながら、誰に合わせるでもなく、ぱくぱくと肉じゃがを食べ、シャリシャリときんぴらを食べる。
きんぴらは鷹の爪の辛さがピリッときて、肉じゃがは甘くて。
本当においしいなあ。
「いいねえ、美和さん。よく食べるねー」
「まだまだたくさんあるから、どんどん食べてね」
「はい」
あ、でも……。
ハタと気がついて箸を止めた。
家に帰ったら父と一緒にご飯を食べないといけないんだ。
「美和さん?」
「……帰ったら、父と一緒に食べないといけないから、ここまでにしておきます。お腹一杯になるといけないから」
智史さんは首を傾げて当たり前のように言った。
「食べてきたからいらないって言えばいいじゃない」
そんなこと、言えない。
「でも……」
「じゃあさ、俺が電話してあげるよ。夕食は一緒に食べたから美和さんはお腹いっぱいですよって。どっちにしても連絡はしないといけないと思ってたんだ。だからね、たくさん食べてって」
「……はい」
電話をしてくれるのは嬉しいけれど。
本当は帰りたくない。
あの家に帰りたくない。
父の言いなりにはなりたくない。
でも、あの家に入った途端、私は反射的に自分を殺して父に従うだろう。
そんな自分を想像したら、体がずしりと重たくなって暗い海の底にどこまでも沈んでいくような気がした。