それでも君が必要だ

ここにいたい。
本当はずっとここにいたいよ。

お父さんが無邪気に「はいっ、どうぞ!」と渡してくれたみたらし団子も、砂糖醤油の甘さが口に中に広がっておいしくて……。

テレビを見ながら、笑ってお喋りして、おいしく食事をする。

こんなに暖かくて幸せな時間、幸せな場所、私は知らなかった。

……知ってはいけなかった。

だってもう知らなかった自分には戻れないもの。

でも、戻らなきゃ。

ここにいられるわけじゃないんだもの。
私はあの家に帰らないといけない。

「それじゃあ、僕はそろそろ行くとしますよ」

お父さんはそう言って立ち上がると「美和さん、またね」とにっこり笑って手を振り部屋を出て行った。

「……お父さんはどちらに?」

「研究部屋だよ」

そういえば智史さん、お父さんのことをマッドエンジニアなんて言っていた。食べたらすぐに戻っちゃうなんて、本当に仕事熱心。

「ねえ、美和さん」

「はい」

「また会ってくれる?」

「え?」

突然の問いかけに目を見張って首を傾げる。

また会ってくれる?なんて。
智史さんは私と会わないといけないんじゃないの?

「胃袋をつかむと心もつかめるって言うでしょ?俺は君の胃袋と心をつかめたかな?」

「そんな……。それは男の人が相手なら、の話ですよね?。本当は私がお料理しなきゃいけないのに、何もできなくてすみませんでした」

「そんなの全然いいんだよ。好きでやってることだし。美和さん、何やらせても面白かったし」

また思い出したようにプッと笑う。

でもすぐに正座をただして真剣な顔をすると私をじっと見つめた。

「美和さん、また俺と会ってほしい」

「は……はい」

真剣な黒い瞳にドキドキして直視できず、思わずうつむいて視線をそらした。
< 125 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop