それでも君が必要だ

その瞳、どこまでが本当なのですか?わからなくなる。

「味はお口に合ったかな?」

こくりとうなずく。

「そう。良かった」

そうだ。
今日は味を感じた。

甘くて辛くて、とてもおいしかった。

たくさん話して楽しくて。
それに、抱き締められて温かかった。

取り返しがつかないほど優しくされてしまった……。

家に帰りたくない。

帰りたくないよ。

……。

でも、帰らなきゃ。

このままここにいたら、もっと気持ちの取り返しがつかなくなる。

その前に帰らなきゃ。

私は一人でがんばってみることにしたんだもの。

包み込むような暖かい空気を振りほどくように深呼吸をして早口で言った。

「あのっ!私、そろそろ帰ります。ごちそうさまでした」

「えっ?そう?……ああ、もうこんな時間か。じゃあ送っていくよ。あっ、でも車は嫌なんだっけ?」

「あ……。えっと、いえ……」

送ってくれるのですか?
そんなこと予想していなかった。

やっぱり智史さんは優しい。

でも車……。
智史さんなら、大丈夫かな?

「車のほうが簡単に送っていけるからさ。どうする?」

「車で、大丈夫、です」

「じゃあ、家まで送っていくね」

「ありがとうございます」

にっこり笑う智史さんにお礼を言ってからハッとした。

そうだ!
朝、駅でスカートを着替えたんだ。
駅に戻ってあのスカートに穿き替えないと……。

「あ、あのっ」

「うん?」

「あの……駅までで大丈夫です」

「駅?なんで?遠慮しなくていいのに」

「本当にいいんです」

「ふーん、そう」

いぶかしげな顔をされてしまったけれど、本当のことは言えなくてうつむいた。

それから食べ終わった食器を一緒に洗い「洗うのは上手にできるんだね」と感心され、赤くなった。

洗うのは得意なのです。
でも、私も少しはお料理ができるようになりたいな……。
< 126 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop