それでも君が必要だ

智史さんはその後、父に電話をかけてくれた。
父に対しては仕事用みたいな冷たい話し方。少し低い声になぜかドキドキする。

智史さんは不満げに電話を置いた。

「『美和が迷惑をかけたね』だってさ。全然迷惑なんかじゃないのにね」

そんなことを言われても答えに困って黙ってしまう。本当に迷惑じゃないのかな。

うつむく私に智史さんはフッと笑った。

「まあ、お父さんにはちゃんと言っておいたから大丈夫だよ。じゃあ、行こ」

コートを着て外に出てから案内された駐車場にあった智史さんの車は、なんていうか、よくある乗用車だった。

「かっこいい車じゃないけど、勘弁してね」

「いえ、そんな」

そんなの全然かまわない。

「どうぞ」

智史さんは助手席の扉を開けてくれた。
親切な行為に驚きつつ、急いで車に乗り込む。

でも、シートに腰を掛けてバタンッと扉が閉まったら、密室に閉じ込められたように耳が詰まって、徐々に鼓動が激しくなってきた。

運転席の扉を開けて智史さんが座ると車が傾いた。そして扉がドムッと閉まったら外の音が聞こえなくなった。

この密閉された空間に隔離された感じがとても怖い。

空気の出入りも許されないような密閉空間。

智史さんとの間には少し距離があるけれど、じっと息を潜めていると小さな動きや息遣いも瞬時に感じてしまう。

ドキドキドキドキ。

「美和さ……」
「ひゃあっ」

話しかけられるなんて思わなかったから、驚きすぎて変な声が出てしまった。

「ごめん。大丈夫?やっぱり車はやめておく?」

智史さんの優しい言葉に心がほぐれる。

「すみません。大丈夫です。ちょっとビックリしただけ、なんです」

「無理しなくてもいいんだよ?電車でもちゃんと送っていくから」

「いえ!本当に大丈夫です。本当に……」

「そう?じゃあ、シートベルトしてね。しゅっぱーつ!」

智史さんの無邪気な言い方に安心して、緊張も少しずつ消え、気持ちはなだらかに落ち着いていった。
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