それでも君が必要だ
必要とされたいからではなくて、ただ純粋に智史さんのために何かしたいと思った。それを心の赴くままにできたから充実した気持ちになったのかな?
役に立っても立たなくても、智史さんとはあっという間にお別れだもの。
会社のためとはいえ、たくさん優しくしてくれた智史さんのために、少しでも何かをしたかった。
少しでもできて良かった。
「もうすぐ着くよ。本当に駅でいいの?」
「あ、はい。大丈夫です」
もう駅なんだ……。なんか、あっという間だった。
車は苦手だけれど、智史さんと一緒なら全然平気。流れていく景色がなぜか心地よくて、もう少し乗っていたい、なんて思ってしまう。
でも、そんな私の気持ちとは裏腹に、車は駅前のロータリーに入って静かに止まった。
「はい、お疲れさま。着いたよ」
「ありがとうございました」
「いやいや、こんなのお安いご用だよ。それより、今日は本当に楽しかった。美和さんと一緒に過ごせて嬉しかったよ。コピーも手伝ってもらったしね。ありがとう」
「そんな、とんでもないです」
「本当は帰したくないけど、仕方ないっ。また、声をかけるよ。そしたら会ってくれる?」
スッと影か近づいて、膝の上に置いた私の手に智史さんの手が重なった。
こんなに近づかれても怖くない。
むしろ手の大きさと温かさに、その影の近さにドキドキする。
「そ、それは……もちろん」
智史さんは優しい。
会えるならもちろん会いたい。
けれど、智史さんのその言葉は本心ではないのでしょう?
そう思ったら悲しくなって目を伏せた。
「それとさ、困ったことがあったらいつでも連絡して」
「……困った、こと?」
困ったことって何?わからなくて顔を上げたら、智史さんは優しく微笑んだ。
「うん、困ったこと。もちろん困ってなくてもいいよ。声が聞ければそれでいいんだ」
「……」
またそういうことを言う。
そういうことを言われること自体が困ったことなのに。
どうしたらいいのかわからなくて、智史さんの手から抜け出しシートベルトを外したら、智史さんは小さくため息をついた。
「気をつけてね」
「はい。送っていただいてありがとうございました」
私がそう言うと智史さんが車から降りたから、何だろうと不思議に思って様子を見ていると、わざわざ助手席まで回って扉を開けてくれた。
「どうぞ」
その親切にまた驚きつつ、促されるまま車から降りた。